『週報』北野唯我のブログ

北野唯我のブログ、プロフィール、経歴など。人材領域をサイエンティフィックに、金融市場のように捉える為の思考実験の場。

新刊の「はじめに」を期間限定公開

※この記事は新刊『これからの生き方』(北野唯我)の「はじめに」を無料公開したものです。(期間限定公開)

当たり前だったことが、ある日突然、あたり前じゃなくなる
わずか、3ヶ月前には想像もしていなかった状況が現実になる

その感覚を今、世界が共有しつつあります。私は兵庫県西宮市で育ち、小学生低学年で阪神・淡路大震災を被災しました。数ヶ月前では当たり前だった生活がボロボロと音を立ててなくなっていく、その様子は「今の感覚」ととても似ているように感じます。水、電気、ガスが突如止まり、道は割れ、町から食料が消えた1日目。笑い声が溢れるのが当然だった公園や小学校から一切の音がなくなりました。静けさと恐怖だけがじんわりと地元住民たちを包みこんでいきました。わたしたち家族は、生きるためにリビングで暖をとり夜を共にしました。

「そうか、日常は一瞬でなくなるものなんだ」

当時、ただの被災地の子どもでしかなかった私はそう感じました。その後、多くの人の支えを受け、街は復興し、私達は日常を取り戻しました。やがて20年以上が経ち、何もなかった私は30歳を超えました。多くの幸運にも恵まれ、今は、会社の経営に携わりながら、ベストセラーを何冊か出す機会にも恵まれました。そして、32歳の年には、自分が書いた本が国立大学の論文試験にも使われるという、作家としての名誉にも恵まれました。

「一体、何が自分の人生で大きなきっかけになったのか」

今になり思うのは、やはり、「震災で感じたこと」そのものでした。非日常下で子どもとして感じたこと、人間の生き様、日々に対する感性が今の自分の大きな指針になっていると感じるのです。言い換えれば、あの辛い経験は、長い目で見たときに、自分の人生にとって確実にプラスの指針になっている、ということです。なぜなら、人は「苦しいときにこそ、自分の人生の生き方を強制的に問われざるを得ないから」です。

どうやって生きるか

そういう類の話は、普段、めんどくさくて、どうしても逃げたくなるものです。もう何が何でも、考えたくない、という人もいるでしょう。特に都会には、楽しい遊びや、お酒や食べ物、恋愛や旅行、ゲームなど、あまりに楽しいものに溢れかえっているため、それらを忘れながら日々を過ごすことが容易です。SNSの発展によって、他人と自分を比較することも容易になりました。だから「焦り」が生まれやすくもなりました。ただ、人生にはどうしても自分が「これからの生き方を問い直すべきタイミング」が存在しているのも事実だと私は思います。

老いていくこと、体を壊すこと、身近な人がいなくなること、

これらはどんな人の人生にも必ず一度は訪れるものです。ただ、その事実に気づくのが、遅いか早いかは、人により差がでる。遅い人もいれば早い人もいる。しかし、確実に人は死に、いつか老いるもの。仮に、直近で何か大変な辛い出来事があった人も、過去に起きた事実は変えられなくても、いつからでも人は変わることができる。大事なのは過去の生き方より「これからの生き方」である。そして、「自分がどうやって生きていくか」でしかない。そのヒントとなる本を作りたい、そう思って、生まれたのがこの本です。

この本は誰に向けられた本なのか? 

それは、きっとどこかで今日も一生懸命に生きる同年代に向けた本です。「お金」が大事であることは理解しながらも、それでももっと大切な何かを見つけたいと思っている同年代へ向けた本です。

お金は大事です。キャリアも大事です。自分自身が会社の経営をしているからこそ痛感していますが、金は力の一種です。しかし、それと同等以上に大事なのは、「自分の人生をどうやって生きていくのか」、その問いと、それを考えるための題材です。今、このタイミングだからこそ出したい本は、キャリアの題材となる、新しい形の教科書です。

最後に、これからの生き方、というテーマを、私程度の人間が語ることは、もちろん抵抗がありました。しかし、それでも何かを同年代に届けたい、笑われてもいいので、誰かのきっかけになりたい、そう思って生まれたこの本を楽しんでいただけると幸いです。
(はじめにより)
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【お知らせ】
新刊『これからの生き方』が2020年8月5日(水)発売されます。すでに10名ほどの方にゲラを読んでもらいました。長谷川さん、黄さん、黒田さん、岩崎さん、津倉さん、ときおさん、伊藤さん、猿渡さん、押切さん、勝谷さん他、みなさんが背中を押してくださいました。

Amazonで先行予約開始です。
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▼新刊の一発目イベントは、「朝渋」8月12日(水)

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当日はこの作品や、前作までの話も含めてみなさんとカジュアルにお話しできればと思っています

申し込みはこちらから↓

https://t.co/4ghDdy63li?amp=1

イベントでもぜひお会いしましょう!

22歳、32歳、そのときにしか書けないこと。を書いて歳をとりたい。

 

「文章を書きたいんだけど」

 

という相談を受けるようになった。どうやら話を聞くと、動機はさまざまみたいだ。

 

・自分の会社の広報のために

・誰かに伝えたいことがあるから

・もっと自分のことを世の中に知ってほしいから

 

などなどだ。正直な話、僕は自分の文章が特段うまいとは思っていない。とくに、構成(プロット)はひどいし、何より語彙が少ない。それでもこうやって本を書き続けさせていただけているのは、とてもありがたいことだと思う。

 

だから、「僭越ながら」という前提を置きながらも、それでも一応、みんなにシェアできることもある。それが

 

 ・文章を書くとは、結局、「覚悟の問題」なのだということ。

 

どういうことだろうか?

 

伝えたいことを、伝える。それは「覚悟」がいること

 

そもそも伝えたいことがあること。

 

それは明らかに能力のひとつだ。文章がうまくなる素養が1つだけあるとしたら、間違いなく「伝えたいことがある」だ。伝えたいことがあれば、あとは技術の問題で、習得が可能だ。ただ、普通、文章を1つや2つは書けたとしても、たくさん書き続けることは難しい。「そこまで、伝えたいこと」がないからだ。あるいは、「自分の存在証明」にそこまでのエネルギーを使えない。

 

でも、世の中に対して違和感を感じるひとや、自分の価値を信じるひとのなかには、伝えたいことが次から次へと湧いてくる人がいる。それは間違いなく才能の1つだ。

 

だから、「文章を書きたい」という以前に、「伝えたいことがあるか」は、文章を書く際にはとても大事なことだと思う。

 

この半年は、正直なところ、ほとんどプレイベートがないぐらい忙しかった。その理由は、新作の執筆だった。しかも、二冊同時に出る。自分にとっては三冊目・四冊目の単著になる。ただ、今回が一番、悩んだ。それは

 

「いったい、何のために、俺は文章を書くのだろうか?」

 「なぜ本をつくるのか?」

 

という問いだった。まさに、自分が伝えたいことがまだあるのか? という根底への問いかけだった。それでも本は生まれた。その理由は、死生観に基づくものだと思う。

 

切迫感

 

「32歳までにビジネス書のベストセラーを出す。そうでなければ、死んだほうがいいな」

 

それが、正直なところ、28歳ぐらいからずっと感じていたことだった。20歳の頃に気づいたことは、自分はビジネスが好きだ、ということだった。もともと、高校時代に(いわゆる)社会起業家として活動してきた自分が感じたことがあった。それは、ボランティアでは世界は変わらない。ということだった。善意だけで救える世界は限定的だと理解した。

 

そんな僕がビジネスに興味をもつことはある意味で必然だったかもしれない。ただ、その中で憧れたのは「起業家」ではなかった。どちらかというと、作家性を兼ね備えた参謀という感じのひとだった。

 

たとえば、クレイトン・クリステンセンや、ダニエルピンク、三枝匡大前研一といった人物たちだった。陳腐な言い方をすると、「ビジネスインテリ作家」という枠だろうか。世界を構造化する審美眼と、作家性、その上で、文体からも感じる熱いパッション。そんな人間になりたい、と思った。

 

いつしか、その憧れは夢となり、そして、「絶対にこの領域で成果を出したい」という覚悟まで変わった。それが、32歳までにベストセラーを出す、ということだった。

 

なぜ、32歳か? それは、大前研一さんが『企業参謀』という大ベストセラーを出したのが、その年だったからだ。もし、32歳までに本格的なビジネス領域でベストセラーを出せなければ、自分は何の領域でも日本のトップにはなれない。そう思った。

 

これはある意味で敗北からのスタートだったと思う。自分は、絶対に孫正義には勝てない。柳井正にはなれない。起業家としては、日本でTOP5%にも入れないだろう。だったら、僕ができることはなんなのだろうか? それを考えつづけた。

 

それが

 

「働くひとへの応援ソング」を作りたい。

 

ということだった。ビジネスパーソンは日本だけでも6,700万人もいる。そんな彼らを勇気付けられるようなものを作りたい。そう思った。高度にビジネスの世界を理解しながら、ビジネスパーソンに知恵と勇気をシェアできるような作品。それを作りたいんだと思った。読んだ後に、世界の見え方が変わる「理論」がある。そして、「勇気」がでる本。

ビジネスパーソンは、多くの人が大小の悩みを持っている。彼らに知恵と勇気を与えられたとしたら、これ以上に嬉しいことはあるだろうか? 僕が本を書く理由はそこにしかない、と気づいた。

 

22歳、32歳、そのときの「全力」を世の中にぶつけた文章は心を動かす

 

「何をかけばいいのか?」

 

というのは、作家にとって永遠の課題だ。

その中で、おそらく大事なことの1つは

 

「今、この瞬間、この年齢だからこそかける文章を書く」

 

ということだ。これは、ある編集者が言っていた。その編集者は、世界的な経済誌のヘッドクオーターの編集責任者をしているが、彼はこういった。「北野さんは、きっと、死ぬまで、文章を書き続けると思いますよ。今の年齢だからこそかけることを書いて、それを数年後に自分でぶち壊していく。そういう風に生きていくと思います」と。

 

なるほど。そうかもしれない。

でも、これは僕だけではない。きっと、みんながそうなのだ。

 

書くこととは、足跡を残すことだ。今の自分、いまのあなたが感じること。それは、未熟で、完成なんてされていない。でも今を生きるエネルギーや、伝えたいものがあるなら、今のあなたを残すべきなのだ。それは、10年後の自分からしたら笑っちゃうような、些細な話かもしれない。でも、その瞬間に生きた言葉こそが、今の時代を生きるひとたちの「応援ソング」になる。だから、今しか書けないことを書くのだ。

 

知っているだろうか? 完璧な瞬間なんて永遠に来ない。世界の真理を理解するタイミングなんてこない。誰もが認めるほど、あなたが出世してからでは遅い。偉くなったあなたの言葉はたしかに、きっと役に立つだろう。多くの人から尊敬を得られるだろう。だが、必要なのはそれではない。必要なのは今なのだ。今のあなたが感じること、今の自分が信じる言葉、自分が自分を疑わないために、今の瞬間を全力で書ききる必要があるのだ。なぜなら、多くの人にとって、最も応援ソングを必要としているのは隣の誰かではなく、あなた自身だからだ。

 

カードの出し惜しみなんてしない。

 

普段、IT企業の役員として働いていて、思うことがある。それは、あまりに多くのひとが、「カードの出し惜しみ」をすることだ。それは、あるときは、謙遜であり、あるときは、自分を守るための保身でもある。

 

このカードを出して、もし負けたらどうしよう? こんな大事なことをシェアしたら損だな、とか。そういうことだ。でもそれは違う。

 

文章を書くとか、物語を作るとか、新しいことをやるとか、そういうのは、「出し惜しみして勝てるほど、甘くない世界」なのだ。自分が持っている全てのことを、毎回毎回、1000%出し切る。そうやって紡ぎ出された言葉じゃないと心は動かない。絶対に売れない。読者にもバレるからだ。

 

「出し惜しみしない?」

「そんなことしたら、枯れちゃうじゃないか」

 

と思うかもしれない。気持ちはわかる。でも、これは断言できる。出し惜しみした言葉など、誰の心は動かせない。誰の心も動かせなければ、新しいチャンスは回ってこない。一方で、覚悟を決めた全力のストレートは、誰かの心を動かせる。それが必ず、あなたのチャンスの幅を広げてくれるかはわからない。だが、1,000%言えるのは、出し惜しみした言葉では、絶対に、永久にチャンスなど回ってこない、ということだ。

 

今、32歳になった。

 

この32歳にしか、書けない、究極の応援ソングが二冊できた。1500円だ。はっきりいって、絶対に、1500円以上の価値はある。これまでの『転職の思考法』『天才を殺す凡人』が完成したときとは違う感覚がある。あの二冊の時は、自分に半信半疑だった。もちろん、全力は出した。価値のある本だと思う。でも、迷いもあった。今回の作品は違う。100%、1500円以上の価値はある、と言い切れる。だから、自信を持ってオススメできる。

 

それぐらい、32歳の自分にとって集大成であり、全く出し惜しみせずに作った本。発売します。『分断を生むエジソン』と『オープネス -職場の空気が、結果を決める』。

 

『分断を生むエジソン』 2019年11月28日発売 (講談社

 

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『分断を生むエジソン』ーかつてほど学歴や社歴が力を持たなくなった時代の「影響力」の正体とは? 

 

『オープネス -職場の空気が結果を決める』 2019年11月28日発売 (ダイヤモンド社

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840万人の従業員データでみえた、「職場の空気」が結果を決める理由。初の本格経営書が発売

 

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現代は、つくる人に「物理的には」優しいが「精神的に」厳しい

年末年始は、原稿を書き尽くした。机の上は散らかり、コーヒーの香りが部屋にこもった。

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そんななか、気になるツイートをみた。

りょかちは昔一緒に仕事をしたことがある。うちの会社でインターンをしてくれていた。そのりょかちがうるさい。

 

「米津玄師」

普段、Spotifyをたれ流しているだけの僕でも、この名前は知っていた。僕は部屋から出て、紅白を見た。キャンドルと大塚国際美術館の世界観があいまって、圧倒的な迫力を持って見えた。彼の演奏をみた人は

 

天才と呼ばれる理由

 

を感じたのではないだろうか。

 

現代は「作る人」に優しいのか? それとも厳しいのか?

『動画2.0』という本がある。この本はとても面白く、その中で著者・明石ガクト氏はこのような指摘をしている。

スマートフォンの普及によって誰もが動画を作れるようになった。動画の時代がきている」

と。いわく、これまでは大型の設備が必要だった動画作成が今でもはスマホさえあれば誰でも作れるようになったのだと。なるほど、たしかにインスタグラムや、tiktokの大流行には「技術革新で動画が作りやすくなったこと」は確実にありそうだ。

そのとき思った。

 

「現代は、実は、作り手に優しい時代なのではないか?」と

 

コンテンツは「消費する側」と「作る側」には圧倒的な差がある。

映画を観るのが好きな人と、映画を下手でも良いので作る人の間には、100万倍近い差があるなぜかというと「希少性」である。いわずもがな「作る側」の方が希少性が圧倒的に高い。

 

だが、その時代は変わりつつある。たしかに昔は「作ること」は難しかった。
たとえば株式会社は資本金1,000万円が必要であったし、スマホもなければ、ブログもなかった。AWSもなかった。

だが、現代は違う。スマホを買う金さえあれば、誰でも「作り手」に回ることができる。

ぶっちゃけパソコンさえ要らない。たとえば、僕は『転職の思考法』を全て、スマホで書いた。11万部売れた。そしてこの原稿も新幹線の中でスマホで書いている。

 

つまり、我々が、作る側にまわるために必要なのは

スマホ

・充電器

・勇気

でしかないのだ。合わせても10万も行かない。ではこれは何を変えたのだろうか…?

美術館は、代表作ではなく「佳作」をみるべき理由

 

僕は美術館によく行くが、その際、有名な画家の「代表作」ではなく「佳作」にこそ味があると思っている。

誰もが知っている有名な作品(代表作)には当然、凄みがある。一番の楽しみだ。だが、もっと面白いのは佳作のほうだ。代表作には、それができる前に何十もの「佳作」が存在している。このとき、僕は2つの側面を持つ。「コンテンツを消費する側」と「作る側」の視点だ。

具体的には、コンテンツを消費する人にとって大事なのは「代表作」だ。だが、クリエイターにとって重要なのはむしろ「佳作」だ。なぜなら佳作は「模倣し、勉強する過程」を学べるからだ。

 

この差が「天才と凡人の差」を決定的にする。たとえば、前述した米津玄師氏ですらそうだ。


彼は10代の頃から、ニコニコ動画で作品を作り続けてきた。その積み重ねが、いま、圧倒的な才能を開花させたのだ。

 

もうすぐ『天才を殺す凡人』という本が出る。この本のコアのメッセージには、才能にはそれを表現するために「武器」が必要だということだ。

どれだけ才能があったとしても、武器を鍛えるチャンスがなければ、才能は世の中に出ない。そしていま、世の中には山ほど「武器を鍛える場所」が存在している。

 

テクノロジーは常に「使い手の資格」を求める。車は世界最大のテクノロジー約物でもあるが、人殺し道具にもありえる。SNSは天才を殺す武器にも、活かす武器にもなる。今の時代、作り手に回る方が明らかにリターンが大きい。だが、それには勇気がいる。それを乗り越えるための理論をシェアしたい。我々は再度問わないといけない。

 

・いつまでも消費する側でいたいのか? それとも、覚悟を決め、作る側に回るのか?

 

書いた。

  

▼1月18日(金)『天才を殺す凡人』発売(北野唯我、日本経済新聞出版社)

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天才を殺す凡人表紙

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