『週報』北野唯我のブログ

北野唯我のブログ、プロフィール、経歴など。人材領域をサイエンティフィックに、金融市場のように捉える為の思考実験の場。

広告宣伝費から1%でも、採用費にあてれば、 一瞬で優秀な学生を採れるポテンシャルがある理由

企業の人事、あるいは経営者クラスの人と話しているとよく聞かれるテーマに

 

「どうやったら優秀な人を採れるのか?」

 

という話がある。僕がいつも思うのは、「確かにこの視点は大事だが、もっと大事なことがあるんだけどなー」ということだ。確かに優秀な人材を採ることは、企業戦略上重要なことであるのは間違いない。100%同意だ。一方で、それ以上に「経営レイヤー・ブランドマネージャークラスだけが捉えられる、マクロの視点」があると思うのだ。

 

どういうことか?

一言で言うなら、“マーケットを構造的に捉えること”だ。

 

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そもそも、新卒領域には「マーケティング」という視点がほとんどない。つまり、

・どんな学生に、いつ、どう訴求をするか

・(採用上の)競合企業からどうやってマーケットシェアを奪っていくか

という視点がないのだ。

 

例えば、典型的な例を紹介すると、僕の古巣である博報堂

「日本一早い会社説明会」と称したイベントをやっていた(今もやっている?)。

 

http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/14440

 

イベントの概要はその名の通り、「就活解禁した日の0:00に、日本一早い説明会をやる」というもの。

ハッキリいうが、これはほとんどバリューがない施策だ。

そもそも就活解禁の0時0分に、博報堂の説明会をモニターにしがみついて見る学生は、博報堂が何もしなくても選考を受けにくる「ガチ勢」だ。これらのガチ勢はわざわざ0時0分に工数をかけなくても、通常の会社説明会などで十分アプローチができる。だから「話題にはなるが、付加価値のない採用施策」なのだ。

 

簡単にいうと「他に、もっとやるべきことある」ということだ。

 

では、具体的に何をやるべきなのか?

 

これは電通が参考になる。

電通は毎年、他の有名日系企業と「コラボセミナー」を行っている。

 

https://www.onecareer.jp/lp/17_013/

 

これはいい。こうすれば、自社に興味がある学生に対して魅力づけしつつも、「自社には興味がない学生」にもタッチポイントをつくることができる。現に僕の周りにも「電通に興味がなかったけど、コラボセミナーで興味を持った」という学生は多い。

 

そして、そう、まさにこれこそが「マーケットを、構造的に捉える視点」なのだ。具体的には「優秀だが、自社に興味がない学生」を引きつけることこそ、付加価値の高い仕事であるはずだ。

 

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・論点:「企業はいつ、採用活動を行うべきか?」

 

加えていうのなら、「企業の採用活動は、マーケットの構造を捉えて行われるべきだ」ということも言いたい。

 

そもそもだが、イベント(説明会など)への参加ニーズというのは、需要と供給のバランスで決まっている。

 

“需要”とは「学生がどれだけ、イベントに参加したいと思っているのか」であり、“供給”とは「企業がどれだけ、イベントを提供できるのか」ということだ。このバランスで決まる。

 

採用マーケットには、この需要と供給のバランスが崩れるときが2回ある。それは「夏前(3年生の9月まで)」と「冬〜春(4年生になる前の2月から5月)」だ。

 

そして当然だが、

 

・夏前(3年生の9月)→需要過多のため、「企業が優位」

・冬〜春(4年生の2〜5月頃)→供給過多のため、「学生が優位」

 

となる。金融市場と同様に、すべての経済活動はマーケットのネジレを狙うのが確実に勝つための定石であるため、企業は「夏前」こそが一番イージーなマーケットなのだ。だがこの時期、活動している企業はとても少ない。

 

反対に、夏前から戦略的に動いている、野村総合研究所NRI)や、DIは採用マーケットにおいて圧倒的なROIで優秀な学生を採れている*。聡明だ。

 

*学生のヒアリングベースによる個人的な所感。定量的データはない

 

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と、ここまで言うと、だいたい人事なら

 

「いやいや、知っているけど、その時期は動けないんだよねー」

 

という答えが返ってきそうだ。うん、わかる。僕が人事でもきっと、そう言う。でも、まさにこの発言こそが「マーケティングの視点がないこと」を示唆している。オコなのだ。個人的には改善したい。

 

そもそもなぜ、夏前に動けないか? その理由は以下の2つに大別される。

 

1、工数が足りない(6月〜7月は、一つ下の学年で面接が本格化している)

2、倫理憲章でNGになっている

 

2つ目は情状酌量の余地はあるとして、問題は1つ目の「工数が足りない」という理由だ。

 

マーケットには「事前に予測ができるもの」と「予測が出来ないもの」がある。そして6月に1つ下の層の採用がハイシーズンになるのは、1年以上前から分かっていることなのだ。なんなら3年前ぐらいから予測できている。その「事前に予測可能なこと」をエクスキューズにして、「あるべき論ベースで施策を打たない」のは、仕事ができないダメンズの考え方だ。市場の動きから逆算して考えるという「マーケティング視点」がないのだ。

 

反対に、大きなバジェットがある広告宣伝費から、ほんの1%でも採用活動費にあてることができれば、一瞬で優秀な学生を採るポテンシャルがあるとも言える。なぜなら、採用マーケットは「アービトラージ裁定取引)*」が極めて簡単な市場だからだ。

 

アービトラージ……同じ商品の価格差を利用して、利益を出す取引のこと。

 

そもそも、採用活動に使われるお金は、広告宣伝費と比べて約100倍~1,000倍単位で小さいことが多い。例えば、ソニーは、年間に広告宣伝費で4,000億円近くを使っている(http://toyokeizai.net/articles/-/82100)が、採用活動費(新卒)は採用人数から逆算するに、3億~6億円程度だと推測される。実に1,000倍近い差がある。だが、両者の目的、特にブランド広告の目的である「企業へのイメージ改善」という意味では、役割はほぼ一緒だ。大きな「差」が存在している。

 

何が言いたいのか?

 

つまり、以下の3点の理由から、「企業は広告宣伝費から、1%でも、採用費にあてて、優秀な学生を採るべきではないか」ということだ。

 

  • マーケット自体に、そもそも「需要と供給のねじれ」が存在している
  • マーケティングが出来る採用責任者が少ない(競合が少ない)
  • 予算規模が1,000倍単位で大きい「広告宣伝費」というバジェットが存在している

 

本編はこちら。