『週報』ー思考実験の場。

北野唯我のブログ。人材市場をサイエンティフィックに、金融市場のように捉える為の思考実験の場。

「年俸1億サラリーマン」を観光業に生めるかが日本経済の行く末を決める理由を話します

 

 

私は、よくこう考えます。

 

—   もしも、「すべての努力が報われない」としても、それでも人々は頑張り続けることができるだろうか? と。

 

私たち日本人は、小さい頃から常にこうやって教わってきました。

 

努力は報われると。

 

しかし、ことビジネスの世界においては、必ずしも努力は報われるわけではない。例えば、あなたの給料の期待値は「一番、最初にどの産業を選ぶのか?」によって実はほとんど決まっている。そして人は「努力が報われない」と気付いた瞬間に、無力な人間に変わる。これもまた事実だと思うのです。

 

給料が1,000万円以上になれる確率は、産業によって、最大20倍近く違う

 

私がそう語る理由は、シンプルなデータから始まる。

 

 

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上の図は産業間における給料のばらつきを表している。例えば、年収1,000万円以上もらっている人の割合は、金融・保険業界では16%だが、宿泊・飲食サービス業はわずか0.8%しかない。簡易化して言えば、1,000万円以上給料もらえる確率は、産業間で最大20倍近く違うのだ。

 

ではこのばらつきは、何によって規定されるのかというと、それは産業別の「一人当たりのGDP(労働生産性)」によって大きく規定されている。

 

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上の図は、「一人当たりのGDP」と「年収1,000万円以上の人の割合」をプロットしている。(異常値である不動産を除くと)明らかに相関していることがわかる。わかりやすく言うと「業界の生産性が高いと、給料も高い」ということだ。給料の原資は、収益から出されるため、当たり前の話だ。

 

問題は「マクロで見たとき」にある。

 

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上の図は、毎年の「入職者数」を表している。入職者とは「新しく働き始めた人の数」を指す。

 

問題は、赤く囲った部分であり、これは「労働生産性の低い3つの産業」をくくっている。この表を見れば、毎年100万人*に近い人々(94万)が最も生産性が低い3つの産業に流れ込んでいることがわかる。100万人というのは、毎年、新たに働き始める人口*の35%に値する。そして生産性は、産業によって、最大で26倍の差があるため、そもそもこの状態で日本全体の「生産性」は、上がる可能性はほぼないのだ。

 

* 入職者数のうち、転職入職者数を除いた値

 

この状況を例えるのであれば、毎年100万人の若い兵隊が、死の「戦場」に進んでいくことを、僕らは見逃しているようなものだ。

 

おそらくあなたはこう思うかもしれない。

 

「ふーん」

 

だが、これを個人の視点に変えてみると話の印象は少し変わる。

 

このロジックが正しければ、人が、どれだけ頑張ったとしてもそもそも選ぶ産業を間違った時点で、給料の上限は、ほぼ決定付けられる。そして、多くの統計で示されたように、人は仕事選びで重要視する項目には必ず、「給料」や「昇級の可能性」が入る。100万人に近い若者の実態は、毎年、未来に希望を持ちながらも、歳をとり初めて「自分が豊かになる可能性がない」ことを気づくのだ。

 

だから僕は少しでも変えたいと思って、HRマーケットのフィールドにいる。

 

最も生産性の低い「宿泊業・飲食サービス業」を軸とした、観光業は成長のポテンシャルがある

 

では、どこに希望を見出せばいいのか?

 

答えの1つは、雇用数が多く、かつ、「生産性」に改善のポテンシャルがある業界にある。

 

そもそも、その産業の生産性に、改善のポテンシャルがあるかどうかは、「どれだけレバレッジをかけられるか」という産業のルールによって規定されている。例えば、金融に代表とされる産業はレバレッジがかけられるため、1時間当たりの利益の上限が実質的に存在しない。だから「金持ちのサラリーマン」が多く存在できる。

 

そして改善する余地がある産業の1つは、日本の観光業だと私は思う。観光業は本来的には「生産性に上限がほぼない」からだ。(観光業のポテンシャルは、デービッド・アトキンソンがその著書でも指摘している)

 

例えば世界で最も来訪者が多い観光地の1つである、ナイアガラの滝は年間で2,200万人*の人が訪れ、なんと6億ドル(670億円)*もの経済効果を生み出す。そして、それにかかるコストは維持費や人件費といった僅かな金額である。粗利率は、上限近いレベルの数字になると推測される。

 

http://www.huffingtonpost.com/2014/02/26/most-visited-attractions_n_4858066.html

https://www.niagarafallsusa.com/about-us/tourism-impact/

 

一方で、ほとんどの観光地は、キャッシュを生み出さない事は説明するまでもないだろう。

 

つまり、本来、観光業のルールとは、「就業者1人あたりの生産性に、天井と底が存在しない*」産業なのである。それがこのビジネスのルールであり、それが故に、レバレッジが最大限にかかると、観光業1本で、国の経済が存在することができるレベルになるわけだ。

 

*厳密にいうと、底(0)はある。

 

では、そんな観光業が発展する上でボトルネックになるものはなにか?

 

それは「給料システムが古いこと」だと私は思う。

 

観光業は「生産性に上限がない」ため、理論上は給料も青天井であるべき

 

本来であれば、観光業は、利益を出せば出すほど、その人に給料が還元されると言うシステムを作りやすい。稼いだ人と、稼がない人の差(給料のボラティリティー)が大きくなる仕組みだ。だが実態は、観光業を中心した産業は給料のばらつきが少なく、期待値も低い。

 

もちろん、観光庁もこの現場に疑問を持ち、「MBA人物の育成」などを唱えている。だがこれは今の給料の実態を鑑みると、完全に「絵に描いた餅」だと言わざるを得ない。

 

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私が言いたいことの1つ目は、観光業がまずやるべき事は、その古い給料形態を破壊し、優秀な人材に対して高いフィーを払うための人事制度システムの構築だということだ。

 

わかりやすいアナロジーでいうと、今日本に必要なのは

 

—   観光業に勤める「年収1億円のビジネスパーソン

これだと思うのだ。

 

日本の「給料システム」の2つの欠点

 

さて、そろそろ終わりにしたい。

 

今の日本社会には給料に関する2つの問題がある。1つは、「メジャーリーグ問題」と私が呼ぶものだ。

 

今の日本は、飛び抜けた人材が外資系企業に行かざるを得ない構造がある。一般的に外資系企業の方が伝統的な日系企業よりも給料のボラティリティ(ばらつき)が大きい。したがって企業内において異常値をたたき出す人材は、その評価を適切に求めるために外資系企業に行かざるを得ない。プロ野球で飛び抜けた人材がメジャーにいくのと、全く同じ構造だ。

 

アマゾンを代表とした有力外資企業が本当にシェアを伸ばしているのは、優秀な人材と言うその国家の源泉力の割合だ。これが1つ目の「メジャーリーグ問題」だ。

 

2つ目の問題は、産業の内部で、優秀な人材が育たないことにある。

 

想像してみてほしい。あなたは今2つのジョブオファーをもらっている。

 

1つは、古くて官僚的な会社で、給料が1,000万円以上になる可能性はほぼ0%である。一方でもう一つの会社(プライベートエクイティなど)は、数十倍近い給料をもらえる可能性が高い。加えて、自分たちが動かせる金額も、スピードも桁が違う。あなたがもし優秀なビジネスパーソンだとしたら、本当に前者を選ぶだろうか?

 

この状態で優秀な人材を内製化することは極めて難しい。結果、産業外から人を招聘せざるを得ない。2つ目の問題は「人材の内製化」が難しいということだ。

 

オールドエコノミーに優秀な人材を引きつけるには、根性論より「ボラティリティが適した人事システム」

 

私は何も金が全てだ、というつもりは全くない。むしろ自分自身は大企業を2度辞めていることもあり、どちらかというとロマンを追う人間だ。だが、ビジネスロジックの世界の中で、自分が「極めて少数派の人間」であることも自覚している。私が言いたいのはシンプルな話だ。

 

適切な価値を出した人が、適切に評価される、

その世界のほうが健全だと思わないだろうか?

そのために産業単位で給料のボラティリティを設計しなおす必要がある。

  

 
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